the end of an era

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Seed & Flowerと選抜制度との闘い(櫻坂46・日向坂46への選抜制度導入に際して)

2023年9月18日、櫻坂46の7thシングルのフォーメーション発表があり、選抜制度を導入することが同時に発表された。そして、2024年2月26日、日向坂46の11thシングルのフォーメーション発表があり、こちらも選抜制度を導入することが同時に発表された。

欅坂46のオーディション合格者が22人であったことから始まった、Seed & Flowerと選抜制度との9年間の闘いは、2024年2月26日、幕を閉じた。おそらく運営から語られることはないであろうこの闘いは、大人数グループアイドルのありようそのものを巻き込む、大きな時代のうねりとともにあった。その闘いの一部始終を、「アイドル戦国時代」とその後の時代を追いかけた人間として見える限り書き残しておきたい。

 

なお、以下では、複数のアイドルグループについて扱うため、各グループ公式の表現に関わらず、一般的なアイドル用語として「シングル表題曲等の主軸となる楽曲を歌唱するメンバーや、そのメンバーを選ぶこと」を「選抜」と定義し、「シングル表題曲等の選抜に選ばれなかったメンバー」を、乃木坂46での表現を用いて「アンダー」と称する。*1

(これから先の文章は、アイドルグループの運営母体である会社や、いわゆる「運営」と総称される運営委員会が辿ってきた道を、その歴史と当時のアイドル文化・ファンの反応などをもとに、多くの推測を交えて綴る文章であることを断っておきたい。)

乃木坂46までの選抜制度の歴史

アイドルグループにおいて、シングル表題曲を歌うメンバーを選ぶ「選抜」というものが、大々的に制度として導入されたのはAKB48からのはずだ。

インディーズの2ndシングル「スカート、ひらり」から、当時の在籍メンバー全員がシングル表題曲を歌うことは一度もなく、メジャーデビューの時点でメンバー数は36人を数えた。それ以降もメンバーが増えていったAKB48は、シングル表題曲を歌うメンバーを「選抜」しなければならない状態であった。さらには、そのメンバー数の多さから、発売されるCDシングルに歌唱曲のないメンバーも多く発生した。

「会いに行けるアイドル」というコンセプトで、劇場という場所を持って始まったAKB48は、当時のアイドルで行われていた握手会を活動のひとつの中心に据え、メンバーを増やし続けた。そしてSKE48NMB48を始めとする姉妹グループを作ることによって、総体としてのAKBグループは、さらにメンバーを増やして成長していった。握手会などの特典を中心とするマネタイズ戦略は、グループの名前を冠して揶揄的に「AKB商法」と呼ばれることもあり、批判の的にさえなった。*2

当時は、ハロー!プロジェクトも25歳定年説が囁かれていた頃で、AKB48の戦略としては、様々な競争の中にメンバーを置きつつ、新しいメンバーを加入させて世代交代し、グループを継続することを重視してきた側面も、いま考えればあったのだろうと思う。

しかしながら、それは同時に、誇張なしで何百人もいるアイドルグループの中から、ときにはファンの投票によって、ときにはじゃんけんという運によって選抜メンバーが選ばれ、それがひとつのショーになるという、残酷な競争社会を生み出したということでもあった。当時の選抜総選挙のテレビ中継で、順位が発表されたあと、過呼吸になったり、感情のあまり号泣したりしたメンバーが大勢いたことは記憶に残っている。

とはいえ、握手会のような特典によるマネタイズは、AKB以降、「作詞家・秋元康へ売上を配分するため」といったような理屈にとどまるものではなく、もっと大きな意味でグループの成長のために必要なものであったことは間違いない。

 

乃木坂46は、「AKB48の公式ライバルグループ」として、2011年8月21日、オーディション合格者36名でスタートし、1枚目のシングルから選抜制度を導入した。しかしながら、シングルには、表題曲を歌う「選抜」と基本的に選抜以外の全メンバーで構成される「アンダー」の楽曲がそれぞれ最低1曲ずつ収録されるというのが、標準的なシングル構成となっており、活動中の全メンバーの歌唱曲が収録されるという点で、AKB48とは異なる制度となっている。*3

これは、劇場を持たないがゆえに、恒常的な仕事が少なく、メンバー数を抱えきれないという運営上の都合もあるものと想定されるが、一方で、「AKB48より人数が少なくても負けないという意気込み」のもと「46」を冠した*4ことからも、当初からAKB48ほど多人数のアイドルグループとしないことが意図されていたことがわかる。「AKB48の公式ライバル」として、当時AKB48に対するひとつの批判であった過当な競争を少し抑えるというアンチテーゼの役割もあったのかもしれない。

たしかに乃木坂46は「毎日が総選挙」との触れ込みのもと始まり、実際にそれは「16人のプリンシパル」という舞台公演の形で具現化された。第1幕のオーディションの後、観客の投票によって第2幕の配役を決定するこの試みは、形を変えつつも4期生*5まで経験したものである。しかしながら、このオーディションは事実上人気投票の性格が強く、もう一つの乃木坂46のテーマである「舞台」との相性がよくなかったことや、配役の不確定さからメンバーへの負荷が高かったこともあり、活動の中心に据えられることはなかった。

加えて、乃木坂46の握手会には、ファンの間で「400部免除」と称される制度があり、個別握手会・個別ミーグリ*6において、完売部数が400部を超えたメンバーは、次作以降の個別握手会・個別ミーグリを免除される。*7卒業後を見据えた個人活動への注力のため、あるいは、世代交代のためという理由付けがなされることも多い。しかしながら、AKBグループにおいては、基本的にこういった免除制度はなかったことから、そもそも乃木坂46における握手会の意義が、AKB48のそれよりもやや小さくなっているものと思われる。

乃木坂46においては、ファンの間で、個人名入りのグッズや握手会・ミーグリ・モバメ・メッセージなど、各種の個人別売上が「指標」と呼ばれ、選抜・アンダーの別や各楽曲におけるフォーメーションも概ねこの指標に沿ったものになっている。ただし、指標は人気を大まかに具体化したものであり、完全に指標に沿って選抜が行われるわけではなく、あくまで目安である。こういった形で、乃木坂46における選抜制度は、その形式を維持しつつも、その競争がゆるやかで不明瞭なものであるという点で、AKB48とは少し性格を異にすることになる。

 

欅坂46のはじまりと「全員選抜」

乃木坂46の妹分として、2016年には鳥居坂46のオーディションが行われ、そのプロダクションとしてSeed & Flower合同会社*8が立ち上げられる。鳥居坂46は、オーディション最終合格者の発表時に「欅坂46」へと改名し、オーディション合格者22人*9でスタートした。

この「22人」という人数は、AKB48乃木坂46の文脈から言えば、明らかに選抜制度の導入を想定しない人数である。AKB48乃木坂46の選抜メンバーは、当時概ね16人前後であって*10、15人選抜・7人アンダーといった体制を想定することは、概ね不可能といってもいいほどであった。*11

 

デビュー前に2名が活動を辞退し、正規メンバーは20人となったが、欅坂46は、最初のオーディション終了から3ヶ月後の2015年11月30日、新メンバー加入を発表する。最終オーディションに参加できなかった長濱ねるを特例で加入させるというものであったが、この際、最終オーディションに参加していなかったことを理由に、長濱ねる1人のみが所属する「けやき坂46」という新グループを結成し、「乃木坂46で例えるとアンダーメンバー」という立ち位置で、新メンバー募集のオーディションを行った。

 

結局、欅坂46は、1stシングル「サイレントマジョリティー」でデビューする際、当時の欅坂46メンバー20名全員を選抜とした。*12坂道グループにおけるいわゆる「全員選抜」という単語の起源は、おそらくこのときの「欅って、書けない?」での発表にあると思われる。この「全員選抜」という単語そのものが、非常に文脈的である。ふつうは、というと何を指すのか不明瞭だが、ここ50年間、日本に存在したアイドルグループのほとんどは、シングル表題曲をメンバー全員で歌唱しているはずであって、全員で歌唱するなら「選抜を行わない」とすればよいのだが、そこにAKB48からの文脈である「選抜」という制度を前提として持ちこみつつ、その上で全員が歌唱することを「全員選抜」と呼ぶ。もとあった鞘に戻っただけなのではという思いはあるが、おそらく、いずれはこの全員選抜を終え、通常通り「選抜」を行いたいという意思の現れであったのだろう。*13通常通り選抜を行うためには、基本的には新たなメンバーの加入が必要となるが、1stシングルのフォーメーション発表時には、既にけやき坂46のメンバーオーディションが開始されていたため、そのメンバーを含めて選抜を行うことが想定されていた可能性が高い。

1stシングルにおいて、長濱ねるは表題曲に参加せず、ユニット曲『乗り遅れたバス』のみの参加となった。この時点で長濱ねるの処遇が確定していたかどうかは不明だが、2ndシングル『世界には愛しかない』では、長濱ねるが欅坂46けやき坂46を兼任する形で、長濱ねるを含む21名の「全員選抜」となった。*14その後、欅坂46は「21人」であるということに一つのアイデンティティを見出し、それを強化する方向へ向かっていくことになる。

一方で、2016年5月8日、1stシングルと2ndシングルの間の時期に、けやき坂46のオーディションを経て加入した、けやき坂46の1期生11名については、かなり難しい扱いを迫られることになった。2nd~4thシングルおよび欅坂46の1stアルバム『真っ白なものは汚したくなる』には、けやき坂46として12人で歌唱する楽曲が1曲収録され*15、握手会にも参加し、単独イベントとして「おもてなし会」を行うなど、アンダーや研修生に近い活動形態を取っていたが、欅坂46けやき坂46の入れ替わりはなく、欅坂46のライブでもけやき坂46の楽曲として数曲を披露する程度にとどまっていた。

 

欅坂46けやき坂46の離別

けやき坂46は、2017年3月21日・22日に、Zepp Tokyoで初の単独ライブを行う。この単独ライブにて、「ひらがな全国ツアー2017」という名称で全国ツアーを行うことが発表された。*16そして、その2週間後の2017年4月6日、「欅坂46 1stアニバーサリーライブ」にて、けやき坂46の2期生オーディションの実施がサプライズという名目で発表された。*17この頃から、けやき坂46は、パフォーマンス等を含めた運営方針全体として、欅坂46を目指すのではなく、少し距離を取る立場を取るようになる。

けやき坂46の2期生オーディションが実施される中、欅坂46の5thシングルの制作について、欅坂46けやき坂46で合同選抜が行われることになった。けやき坂46から選抜に選ばれたのは、潮紗理菜・加藤史帆齊藤京子・佐々木久美・高本彩花の5名であったが、その話は立ち消えになり、欅坂46は長濱ねるを含めた21人の「全員選抜」で、5thシングル表題曲『風に吹かれても』を制作することになる。*18

また、この選抜発表と同時に、長濱ねるが欅坂46専任となることが発表された。理由は稼働が多忙を極めたためとされており、5thシングルのけやき坂46の楽曲に参加しないこと、当時開催中であった「ひらがな全国ツアー2017」に参加しないこと、けやき坂46の出演が決定していたドラマ『Re:Mind』に参加しないことが発表された。

合同選抜が立ち消えになった理由は、週刊誌報道などで憶測が語られるのみであって、真実は不明だが、新メンバーが加入して人数が増加したことも相まって、この頃からけやき坂46は、欅坂46と独立した路線を歩むこととなる。この方向性は、5thシングルに収録されたけやき坂46の楽曲『それでも歩いてる』の歌詞にも色濃く表れており、2018年2月1日には、けやき坂46が単独でアルバムを発売することも発表された。

この5thシングル以降、欅坂46においては、選抜はその機能をほとんど失い、6thシングル『ガラスを割れ』から、『欅って、書けない?』においては「フォーメーション発表」という表現に変更された。*19これが、5thシングルからではなく6thシングルからなのは、けやき坂46単独アルバムの発売決定をもって、欅坂46メンバー・けやき坂46メンバー・両グループのファンのどの立場からも、けやき坂46は「アンダーとしての立ち位置」ではなくなり、合流して選抜を行うことがないことが概ね認められるようになり、次に述べる坂道合同オーディションのように、その方向性を運営が認めたからだと思われる。

 

3つの坂道をつなぐ合同オーディション

2018年3月10日、乃木坂46欅坂46けやき坂46の3グループが、合同で新規メンバー募集を行うことが発表された。まずは、この「坂道合同新規メンバー募集オーディション」*20の時系列を振り返りたい。

8月19日に最終オーディションが行われ、11月29日には、39名の合格者のうち、乃木坂46の4期生として11名、欅坂46の2期生として9名、けやき坂46の3期生として1名の配属が決定し、配属に至らなかった合格メンバー18名*21は「坂道研修生」として引き続きレッスンを行うこととされた。

「坂道研修生」は、2019年9月7日のプロフィール公開までに3人が辞退し、15人で同年10月から11月にかけて「坂道合同 研修生ツアー」を実施した。その後、2020年2月16日に、乃木坂46の4期生として5人、欅坂46の2期生として6人、日向坂46の3期生*22として3人の配属と、1人の活動辞退が発表された。

結局、あわせて乃木坂46に16人、欅坂46に15人、けやき坂46・日向坂46に4人が配属されることとなった。しかし、この坂道合同オーディションの配属は、当初の運営の想定と異なる形で行われていた。

当初は適性を見て、各グループに配属しようと考えていたが、本人の希望を重視する方向に変更になったことが、今野義雄の口から語られている。*23

 

「適性を見て」とは、有り体に言えば「運営側の都合も考慮しつつ、バランスを考えて」ということでもある。坂道合同オーディションは39人の合格者を出しており、もし単純に各グループに均等に13人程度を配属していたらどうなっていただろうか。

そもそも、坂道合同オーディションは、欅坂46けやき坂46のオーディションを同時に行うものである。2018年3月当時、欅坂46けやき坂46は事実上独立した路線を歩んでいる状態であったとはいえ、けやき坂46欅坂46とともに「欅共和国2018」に参加しており*24、もともとはけやき坂46とは欅坂46の「アンダーのような立ち位置」として始まったものであって、けやき坂46の選抜への合流が達成されないまま*25欅坂46に新規メンバーを加入させることは、やや不合理とも思える。

実際には、この坂道合同オーディションの後、けやき坂46は改名・CDシングルデビューを発表し、2019年3月27日に、日向坂46として新しいスタートを切ることになる。新規メンバーを募集するということは、グループにとって大きな転換点になり、オーディションを行う時点で、新規メンバー加入後のグループ運営についても慎重に計画されるはずである。特に、握手会を中心としたマネタイズを考える上では、グループの人数は非常に重要な要素であり、何人を新しく加入させるか、また選抜制度を導入していない欅坂46けやき坂46においては、選抜制度の導入の可能性についても、当然検討されているものと思われる。

坂道合同オーディションを行い、欅坂46けやき坂46に同時に新規メンバーを加入させるのであれば、けやき坂46の完全な独立と、欅坂46への選抜制度導入を想定することが自然である。けやき坂46についても、当時のメンバー数が20人であり、さらに13人程度が加入すれば、合計33人程度となって選抜制度の導入が必要になる可能性が高い。

 

しかしながら、実際には先述の通り、欅坂46には15人、けやき坂46・日向坂46には4人のメンバーが加入することとなった。少なくとも、日向坂46の加入人数は、当初の想定よりは大幅に少なくなったと考えられる。欅坂46には2期生が加入したこと、そして日向坂46には3期生が4人しか加入しなかったことによって、この2つのグループには、当初運営が想定していなかったと思われる結果がもたらされる。

 

欅坂46の終焉と、選抜制度導入への志向

欅坂46は、その後も8thシングル『黒い羊』まで「全員選抜」*26を継続した。

9thシングルでは、「初めて」と名言する形で選抜制度の導入が発表され、1期生・2期生から17名が選抜された。しかしながら、このシングルの発売は、2019年12月に延期が発表され、最終的には発売されることなく、櫻坂46への改名が行われた。改名前に発表された配信限定シングル『誰がその鐘を鳴らすのか?』では、1期生・2期生*27の全員が参加し、センターポジションは不在となったため、欅坂46においては、最終的に選抜が行われることはなかった。

8thシングル『黒い羊』が発表されたのが2019年2月27日、9thシングル発売発表が9月8日、選抜発表が9月9日、延期発表が12月8日であり、2020年3月頃からはコロナ禍に当たり、全員参加の配信限定シングル『誰がその鐘を鳴らすのか?』は2020年8月21日に発売される。2期生は2018年11月に加入してからの2年弱、期別曲すら与えられず、主な活動としては、卒業・欠席した1期生の代わりにライブに参加するにとどまっていた。

そもそも、この『黒い羊』期間には多くのメンバーの卒業・脱退があり、欅坂46の今後の方針や方向性が定まっていなかった時期であるという側面はあるが、2期生が満足に活動に参加できていなかったことは事実である。そして、今後の方針として、10月13日の『欅坂46 THE LAST LIVE』をもって欅坂46としての活動を休止、10月14日より、櫻坂46として活動を開始した。

櫻坂46では、1stシングル『Nobody's fault』から「櫻エイト」と「BACKS」という独自の選抜制度を導入した。*28ただし、櫻坂46公式の表現としては、「選抜」という単語を用いておらず、「マルチシステム」と呼ばれる。これは、表題・カップリングを区別しない形で、1列目と2列目の「櫻エイト」と呼ばれる8人は、うち3人のセンターを変えながらシングルの全楽曲に参加し、後に「BACKS」と呼ばれる残りの18人は、楽曲ごとに6人が楽曲に参加するというものであった。

ファンの間では「櫻エイト体制」と呼ばれることもあるこのマルチシステムは、概ね5thシングル『桜月』まで、カップリングのユニット曲の増加や、渡邉理佐の卒業に際しての楽曲である『僕のジレンマ』の全員参加、人数減少によるチーム数の減少など、少しずつ形を変えながら維持されてきた。

櫻坂46では、様々な経緯があり、「選抜制度」という表現をしばらくの間用いてこなかったが、握手会・ミーグリの参加人数を増やし、CDシングルの売り上げを伸ばすという機能を持つという意味では、このマルチシステムは選抜制度と同等のものである。

6thシングル『Start over!』では、1期生と2期生の全員が選抜される*29形で、「櫻エイト体制」は解消された。

次の7thシングル『承認欲求』では、3期生が表題曲に参加することとなった。従来の「櫻エイト体制」とは異なる形で、16名を選抜し、アンダーに相当する残り12名のメンバーを、従来の表現を用いて「BACKS」と称した。これがグループ公式の表現では初の「選抜制度」の導入となる。8thシングル『何歳の頃に戻りたいのか?』でも、継続して選抜制度が用いられた。*30

 

けやき坂46・日向坂46の変遷と、「全員選抜」の維持

そもそも、けやき坂46時代には、ユニット曲などは存在するものの、欅坂46のシングルに収録されるけやき坂46の楽曲は1曲から2曲であり、CDシングルの構成としては最後までアンダーと同等の扱いであったことから、その中でさらなる選抜制度は導入されてこなかった。

けやき坂46は、2019年3月27日に「日向坂46」に改名、1stシングル『キュン』を発売しCDシングルデビューする。この当時のメンバーは、1期生11人・2期生9人・3期生1人の21人であり*31、この人数で選抜制度を導入することは難しく、表題曲を全員で歌唱することとなった。

この当時のけやき坂46・日向坂46は、楽曲『約束の卵』とともに東京ドームへの夢が与えられ、後にドキュメンタリー映画『3年目のデビュー』において「私たちは誰も諦めない、誰も見捨てない」とキャッチコピーがつけられるように、その夢へ「全員で」向かっていこうとしていた時期である。*32

2ndシングルから4thシングルまでは休業・卒業等がありつつも、表題曲を活動中*33の1期生・2期生・3期生全員で歌唱した。1stアルバム『ひなたざか』のリード曲『アザトカワイイ』からは、新たに加入した「新3期生」も含めた全員での歌唱となり、5thシングルから7thシングルも同様の体制となった。

8thシングル『月と星が踊るMidnight』の制作時点では、4期生の12人が加入し、メンバー数は総勢で33人となっていた。乃木坂46の3期生・4期生では、加入して初めてのシングルでは期別曲のみの参加となっており、日向坂46の4期生もこれと同様に、8thシングルでは表題曲を1期生・2期生・3期生の全員で歌唱し、4期生は期別曲『ブルーベリー&ラズベリー』のみを歌唱した。

その後、9thシングル『One choice』、10thシングル『Am I ready?』、2ndアルバム『脈打つ感情』のリード曲『君は0から1になれ』でも同様の体制がとられ、4期生は表題曲・リード曲の歌唱に参加していない。加入日・お披露目の日から合流日*34までの日数で考えると、乃木坂46の2期生が201日、3期生が340日、4期生が276日、5期生が29日*35、櫻坂46の2期生が731日、3期生が228日であるが、日向坂46の4期生は11thシングルから参加する場合で568日となる。櫻坂46の2期生は、先述の通り、欅坂46の9thシングル制作見送りと欅坂46の改名等に伴い、そもそもシングル・アルバムが制作されない期間が長く続いたが、それに近い期間、表題曲に「合流」できていない。

少なくとも、1期生が加入した2016年5月8日から4期生が加入した2022年9月21日に至るまで、けやき坂46・日向坂46には選抜制度が存在しなかった。鶏がさきか卵がさきかはわからないが、選抜制度が存在しないからこそ、けやき坂46・日向坂46には連帯感というアイデンティティが生まれたのだという言い方さえできるように思う。

そして、これは先述した坂道合同オーディションでの配属者が4人であったこととも関係が深い。坂道合同オーディションで13人程度が配属されていたとすると、デビュー時点でのメンバー数は33人となり、櫻坂46と同様に改名と同時に選抜制度へと移行することは自然な流れとして想定されうる。実際には4人であったことから、こうした選抜制度が存在しない環境が長期間維持されつづけていた。

 

アイドルの人数と時代の移り変わり

坂道グループにおける選抜制度の歴史を振り返ったところで、坂道グループから話を広げ、アイドル全体を振り返ってみたい。「終わらないアイドル」が理想として掲げられて久しいが、女性アイドルにとって、「終わらない」ことを実現するのはあまりにも難しい。男性アイドルでさえ、2016年12月のSMAP解散を経て、アイドルにはいつか終わりが来ることを突きつけられた。

少なくとも2024年現在、グループアイドルにおいては、メンバーが加入したその日から、いつかは卒業し、グループを巣立っていくことを前提に、アイドルの文化は回っている。

ももいろクローバーZが新たな「終わらないアイドル」への挑戦を続けてはいるが、それでも6人から5人、4人へと人数を減らし、長くAKB48の最年長であった柏木由紀はキャリア17年目、32歳で卒業を発表した。根源的に、AKB48グループ・坂道グループに所属する限り、アイドルに永遠はないのだろう。それは、AKB48グループ・坂道グループにおけるキャリアのあり方は、ある種一方向的であって、年齢とともにありうる多様なキャリアの選択肢を提供できていないからだ。それは選抜制度と根源的な部分で繋がっているのだろうとさえ思う。

たしかに、乃木坂46は、「400部免除」などの制度や、個人プロデュースへの支援などの運営体制の恩恵もあり、AKBグループよりは卒業までの時間を少し長くしつつあるように思うが、それでも、1期生はデビュー11年で全員が卒業した。

一方で、AKB48グループ・坂道グループ以外のアイドルも、多く台頭している。指原莉乃のプロデュースする=LOVE、≠ME、≒JOYなども、そのひとつである。=LOVEは、2017年4月に12人でデビューしたが、指原莉乃は、=LOVEの2期生オーディションを周囲から勧められた際に、理想は「選抜制度のないグループ」にあるとして、2018年11月、姉妹グループを作ることを決めた。*36

指原莉乃は、AKB48HKT48STU48に所属し、選抜総選挙を独自の手法で戦い、3度1位に立ってきた人間である。それでも、自分がプロデュースするアイドルに対して、選抜制度のないグループを理想としたことは、AKB48の時代の潮流を大枠で否定したということでもある。そして、ファンがこの決断を受け入れていることが、アイドルグループとして、選抜制度が不可欠のものではないということを何より示している。

とはいえ、先に述べた通り、グループアイドルは、個々のキャリアの長短はともかくとして、いつかはメンバーが卒業していく。AKBグループ・坂道グループは、アイドル個人に終わりがあることを前提にしつつ、新規メンバーを加入させることによって、アイドルグループとして続いていくことを目指している。つまり、=LOVEが2期生の募集を行わないということは、将来的にグループが終わっていくことを選んだということであり、その意味でもAKBグループ・坂道グループと大きく距離を置く決断である。

 

さらに言えば、2016年5月8日に加入したけやき坂46の1期生、2016年8月21日に加入した乃木坂46の3期生、2017年4月29日に合格した=LOVEが、いずれも11人~12人であったことも印象深い。その後も、坂道合同オーディションの39人(前述の通り、3グループに均等に配属する前提で言えば1グループ13人)、≠MEの12人、乃木坂46の5期生11人、≒JOYの11人*37、日向坂46の4期生12人、櫻坂46の3期生11人*38と、概ね11人~13人ほどのオーディション合格者を出している。

現在では、坂道グループも、期別に曲が書かれることや、期別での活動なども多く、成長の過程や物語の形成は各期ごとに起こっている傾向にある。特に新規のファンにとっては、加入当初から応援できることもあるからか、自分がファンになった時期に加入したメンバーを応援する傾向もあり、各期別にひとつのアイドルグループのような扱いをされることもある。

そうした際に、およそ12人という人数は、ひとつのアイドルグループとして全体曲をやったときに必要最低限の迫力が出る人数でもあり、その中に色々な個性を見出して、色々な方面で活躍するための、適切な人数でもあるのだろうと思う。欅坂46のファンや乃木坂46の4期生ファンの中には、「21人が揃う」や「16人が揃う」ということに大きな感動を見出す人も多いが*39、実際に揃うことはかなり難しかった。12人前後だからこそ、全員揃うことが現実的にもなり、そのときそれぞれのメンバーにきちんと焦点を当てることもできる。

秋元康プロデュースのWHITE SCORPIONの11人や、PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLSから結成されたME:Iの12人など、この12人前後という人数は、他のアイドルグループにとっても基準となっている。

いわゆる「アイドル戦国時代」以降、ももいろクローバーZを理想とする中で生まれた5~6人のアイドルグループが、いわゆる地下アイドル・ライブアイドルを中心に多くいるが、2024年現在のメジャーでのグループアイドルの理想像は、12人前後となっていることがうかがえる。これは、明らかにAKB48の時代には存在しなかったものであって、大人数アイドルグループである坂道グループも、期別という形で概ねこれに寄り添っている。

 

ある意味では、2020年代は、大人数のアイドルグループに対して、やや否定的なポジションから見られることが増えているという考え方もありうる。「アイドル戦国時代」には多くのアイドルが生まれたが、アイドルグループに加入できても、そこからスターになれるのは一握りの人間で、全員がグループ在籍時も卒業後も芸能界で生きていくことができるわけではないということが、よく語られるようになった。それはオーディションの応募者数にもよく表れている。乃木坂46のオーディションに多くの人が応募するのは、その人気だけが理由ではなく、卒業生が卒業後も活躍の場を広げていることがわかっているからでもある。乃木坂46の運営は、オーディションの応募者数を増やすという意味でも、それぞれのメンバーが個性を磨き、卒業後の進路をつくってから卒業させるということに、かなりの心血を注いでいる。櫻坂46や日向坂46も含め、大人数のグループアイドルは、卒業後の進路に対して、かなり厳しい目が向けられている。

乃木坂46はデビュー当初から選抜制度を導入しているが、正直なところ、初期のアンダーメンバーには、卒業後の進路を明確にできずに卒業していったメンバーも多くいる。こういった厳しい目が向けられる中での選抜制度は、かなり難しい舵取りを迫られることになる。

これは、「アイドル戦国時代」の2010年代とは、明らかに価値観が異なる。多くのアイドルグループが生まれ、小さな規模から始まったアイドルグループが、日本武道館や東京ドーム・国立競技場でライブを行えるまでに成長していく。その夢がアイドルの口から語られ、ファンもその夢が叶う可能性があると思っていた。もちろん、ほとんどのアイドルはその夢を達成できないまま解散していったが、少なくない数の成功例があった。2010年代とはそういう時代であった。

AKB48はその「アイドル戦国時代」の前半を駆け上がり、後半には、選抜総選挙を舞台装置として、グループの中で小さな「アイドル戦国時代」をも生み出した。乃木坂46は、AKB48の公式ライバルとして生まれ、徐々にその勢力を拡大し、「アイドル戦国時代」の先頭集団に混ざっていった。欅坂46は2010年代の中頃に生まれ、瞬く間にその時代に割って入った。日向坂46と櫻坂46は、「アイドル戦国時代」の終わり頃に改名・デビューし、アイドルのあり方が目まぐるしく変わる2020年代に生きている。だからこそ、櫻坂46や日向坂46は、乃木坂46とは異なる価値観のもと、楽曲のフォーメーションや選抜に関して、独自の制度を設ける必要があったのだと思う。

 

坂道グループ個々の特色と選抜制度との関わり

思えば、乃木坂46は、AKB48の公式ライバルとしての成立から、AKB48との対立軸を掲げることを運命づけられてきた。前述の通り、劇場を持たないことや、競争を抑えることもその対立軸のひとつであり、「女子校のような」という語られ方も、AKB48との対比を意識したものである。特に、8th YEAR BIRTHDAY LIVEまでの全曲披露に代表されるように、その歴史を表現することが、乃木坂46の大きな強みとなった。

そして、欅坂46は、当時のトップアイドルであったAKB48乃木坂46のどちらとも違う特徴を持つことを運命づけられて始まった。おそらく選抜を想定しない22人という少ない人数で始まったこと、乃木坂46のアンダー楽曲をさらに突き詰めたような社会性・反骨精神のある歌詞、そしてその歌詞や楽曲を届けるためのパフォーマンスに集中することが、欅坂46の特徴でもあった。

欅坂46が2度に渡って選抜制度を導入しようとしたにもかかわらず、それがうまくいっていないことは、こういった社会に対する反抗というアイデンティティと無縁のものとは思えない。「社会に対するメッセージ」を掲げるにあたって、メンバーの側は一致団結しなければならないからだと解するのが自然なように思う。「21人の絆」という概念は、選抜の拒否という文脈ではなく、メンバーが楽曲を届けるために、そして一致団結してパフォーマンスをするために、必要なことでもあるのだろう。

櫻坂46は、欅坂46の精神を受け継ぎつつ、2023年・2024年現在では、楽曲のパフォーマンスに強いこだわりを持つアイドルグループとしての立ち位置を明確にしている。櫻坂46は「全員で輝ける未来へ」を標榜して始まった。これは当然、欅坂46では全員が輝けたわけではないということ、つまり欅坂46が「21人全員で」にこだわり続けた結果、2期生を含めた「全員で」が達成されなくなったということの裏返しである。だからこそ、櫻坂46では1stシングルからの「櫻エイト体制」に「選抜」という言葉を使わず、全員でシングルを制作するという形式を取ったのであろう。

とはいえ、6thシングル『Start over!』での1期生・2期生全員選抜を経て、7thシングルからは名実ともに選抜制度を導入することになった。これは、形式的には6thシングルで、実質的には多くの1期生の卒業をもって、「全員が輝けなかった過去」からきちんと脱却できたから、そして櫻坂46がアイデンティティとして求めた「パフォーマンス」を追求するにあたって、選抜制度が障害にならないことが明らかになったからとも言える。*40

競争を軸にして一時代を築いたAKB48と、それに対抗して歴史を紡ぎ成長した乃木坂46、AKBと乃木坂に対抗して作品を軸に熱狂的な支持を得た欅坂46欅坂46の流れを受け継ぎパフォーマンスを磨くことで復活した櫻坂46がいる。日向坂46は、この3つの軸とは別のなにかを、グループの軸とすることを運命づけられている。そもそも、日向坂46は、けやき坂46の時代から欅坂46との違いを追い求めてきたグループである。ハッピーオーラや、『約束の卵』への物語、「私たちは誰も見捨てない」に代表される連帯感は明確にその解答のひとつである。けやき坂46・日向坂46は、連帯感によってファンを集め、そして成長してきた。明確に東京ドームという夢があり、そこへ向かって全員で走り続けていたあの頃には、たしかにそこにしかない物語があった。そして、欅坂46とは方向性は異なるが、一体となるということは、そのときのメンバーを特別なものにするということと裏表の関係にある。

だからこそ、それらの解答は、「選抜制度」という明確にグループを二分する競争構造とそう簡単に両立できるものではない。かつて欅坂46がそうであったように、グループが一つになっていくコンセプトとグループを二分する制度を両立しようとするのは、一歩間違えばグループそのものが消えてなくなってしまうほどに危ういことである。

だからこそ、日向坂46は、1年もの間、4期生の表題曲への参加を留保しつつ、1期生・2期生・3期生の全員選抜を維持しつづけた。少なくとも、選抜制度を導入するためには、メンバーにとっても、ファンにとっても、それなりの理由や独自の方向性が必要だ。齊藤京子の卒業で、2024年4月6日時点でのメンバーは28人になる。選抜制度を導入せずとも、4列のフォーメーションでなんとか全員が表題曲に参加できる人数である。

 

余談:乃木坂46と櫻坂46・日向坂46の運営方針の差異

乃木坂46の運営と欅坂46・櫻坂46・けやき坂46・日向坂46の運営は、代表取締役に今野義雄を据えていることなど、共通点もあるが、あくまで別の会社であって、運営方針も異なる。

アイドルグループに対しての運営方針も、現在では、個を重視することを第一に考え、その個が多方面に活躍する中でのゆるやかな競争を原動力にしているのが乃木坂46LLCである。Seed & Flowerは、影山優佳小坂菜緒のいわゆる「外番組」への出演をやや抑えている。結局、グループ全体の運営を成立させることが優先事項にあって、その上で個人の仕事を考えるという体制にあるように見える。

それは実際には欅坂46の世界観を成立させることに一役買ったという面もあり、日向坂46では『約束の卵』の効果を借りつつ大きな原動力となったし、櫻坂46ではここ最近グループ全体の運営が上手に機能し始めていることがわかりやすい。

とはいえ、日向坂46の4期生や櫻坂46の3期生が、乃木坂46の5期生に比べてそのパーソナリティーに注目が集まりにくいのは、知名度や人選といった点のみならず、やはり個を尊重しその力を伸ばすことを主眼に置く乃木坂46LLCと、グループ全体を成立させることに主眼のあるSeed & Flowerの差異でもある。

ただ、企業体としては欅坂46の誕生とともに始まったSeed & Flowerが、欅坂46の作品づくりと世界観を第一に置かなければいけない環境から始まっているからこそ、こういった運営方針が形成されてきたのだとも言えるように思う。

卒業後のタレント長濱ねるのファンとしての筆者の個人的な感想だが、タレントのマネジメント事務所としてのSeed & Flowerは、個人に寄り添う方針が見える。ある程度本人に仕事の選択権があり、本人にオファーの話が行かないこともあまりないように見える。もちろん、マネジメントとしてやらなければいけないことはあるが、ファンクラブなどについては、本人の希望を実現できるようなマネジメントがなされているのが見て取れる。

そう考えると、この差異は、タレントのマネジメントと、アイドルグループのプロデュースとの本質的な差異のようにも見える。ある意味で、乃木坂46LLCはプロデュース業からマネジメント業としての役割に変わりつつあり、Seed & Flowerは、あるいは櫻坂46・日向坂46はまだプロデュースが必要な段階にあるのだろうという考え方もある。

 

おわりに

筆者も、今以上にアイドルが、というかAKB48が、そして選抜総選挙がもはや生活の中にあったといってもいいくらい当たり前の時代に生きて、今までアイドルを見てきている人間として、選抜制度から生まれる物語があることも重々理解しているつもりだ。そして、AKB48においては、選抜制度から生まれる競争が、グループ全体の成長の原動力となっていたことは間違いない。乃木坂46でも、齋藤飛鳥に代表されるように、アンダーから選抜へ、センターへという個人の成長の物語を生み出してきたのが、選抜制度である。

とはいえ、2020年代は「アイドル戦国時代」とは異なる様相であって、アイドルの持つ社会的なインパクトはやや小さくなり、切磋琢磨するための競争を生み出す装置としての選抜制度は、やや残酷なものと解されつつある。乃木坂46でさえも、近年では選抜の人数を増やし、アンダーの人数を大きく減らしつつある。オーディションの質の担保も含めて、2020年代のアイドル運営は、もはや多くのメンバーの中から何人かが「スターになっていく」ことを見守ることではなく、少ない人数でも、オーディションで選んだメンバーを「スターにする」ことが求められている。

選抜制度とは、明確にグループを2つに分けるものであって、単純に人数が増えたから選抜制度を取るという選択は、4期生加入までに積み上げてきた日向坂46の歴史と整合性が取れない。合同選抜が立ち消えになってから、東京ドーム公演に至るまでの長い坂道を「連帯感」で駆け上がってきたグループだからこそ、選抜制度を導入するには何かしらの理由が必要だ。少なくとも、乃木坂46にあった「400部免除」制度は櫻坂46・日向坂46にはなく、乃木坂46ほどのペースでメンバーを入れ替え、追加募集をしなければならない理由はないのだから、乃木坂46と同様の制度が絶対に必要だとまでは言えない。

そもそも、ある一定の尺度で競争するとき、努力が報われないことも当たり前にあって、選抜制度を導入することは努力が報われない社会の厳しさにメンバーが晒されるということでもある。*41だからこそ、欅坂46が選抜制度に対するアレルギーを示したことには、欅坂46そのものの世界観として、そしてメンバーの気持ちとして納得がいく。

そして、けやき坂46・日向坂46の過去の経緯からも、全員選抜を崩して選抜制度を導入することに対して、1期生にはなんらかの感情があるはずだ。佐々木美玲が2022年になって、つまりあれから5年が経っても「幻の選抜」について言及していることが、何よりそれを示している。

4期生が加入して最初に参加したシングルは7thシングル『月と星が踊るMidnight』であり、9thシングル『Am I ready?』では3期生からはじめて上村ひなのをセンターにすることで、4期生がセンターになる可能性を示した。2ndアルバムなども含めて、やや時間稼ぎの誹りを免れないところはあるが、日向坂46の次の方向性が示されるまで、選抜制度に対する態度を保留しなければならなかったことは必然とも言える。2023年、停滞した1年を経て、「もう一度東京ドームに立つ」ということが明確に目標として掲げられたいまこそが、決断のタイミングになるはずだ。2024年2月26日、11thシングルのフォーメーション発表で選抜制度を導入するに至るまでの過程は、なくてはならなかったのだ。

 

2024年現在、選抜制度に対する否定的な風潮や、グループアイドルの少人数化が進んでいるのは事実だが、一方で、AKB48グループや坂道グループは、選抜制度によって売上を維持し、グループそのものを成長させてきたことも一方でまた事実だ。

グループを将来にわたって運営する意思があるのなら、選抜制度を導入するにしても、全員選抜を維持するにしても、運営はどこかで決断しなければならない。かつて、坂道合同オーディションのとき、欅坂46への選抜制度導入とけやき坂46の改名・単独デビューが意図されていたように、日向坂46の4期生オーディションを行った時点で、運営はこの決断にたどり着くことが運命づけられていたはずだ。

 

欅坂46・櫻坂46も、けやき坂46・日向坂46も、AKBグループ・坂道グループに前提としてあり続けた選抜制度をデビュー時に導入することはなく、長い時間をかけて、選抜制度と向き合ってきた。メンバーやファンもそうだが、狭間にある運営は、この闘いの最前線にいたことは間違いない。とはいえ、選抜制度に向き合う過程の中で、欅坂46も、櫻坂46も、けやき坂46も、日向坂46も、それぞれの特色を見い出してきた。この過程こそが、アイドルグループとしての成長のために必要な経験であったことを信じてやまない。

 

あとがき

今回の文章は、櫻坂46への選抜制度導入の発表後、日向坂46にもいつか決断のときが来ることを想定して書きすすめていた文章である。ここまで記したほとんどのことは、選抜制度が導入されても、全員選抜となっても、「決断を迫られた」という文脈から同じように捉えられる。こうしてアイドルを構造的に捉えることは、「ふつうの」アイドルのファンとしての意義があるとは思えないところもある。アイドルのファンとは、目の前に実存するメンバー本人にこそ関心があるものだと思うからだ。

とはいえ、そういう構造の上でアイドルは生きているし、僕にとっては、そういう構造の中に身を投じることこそがアイドルの本質的な魅力なのだろうと思う。極論だが、構造を見ることで、目の前のアイドルときちんと向き合うことができるようになるとさえ思う。

AKB48は少なくとも全盛期の勢力を維持できておらず、選抜制度を導入したグループでさえ、アイドルがグループとして続いていくことはそう容易ではない。僕自身には、欅坂46は記憶の中の存在でいいんだ、という思いはあるし、そういうアーティストが無数にいたわけだから、絶対にそれを受け継いでほしいという思いはない。とはいえ、櫻坂46はアーティストであると同時にアイドルグループでもあって、アイドルとはグループを維持するかどうかとは関係なく、「継承」みたいな経路依存性が大事なのだから、そうやって生きていくことが、そしてファンとしてはそれを見守っていくことが大事なのかもしれない。

ここまで、約2万字を綴って、僕自身の気持ちがようやく整理された。もとから「運営の判断に任せたい」と言い続けていたが、本当の気持ちとして、選抜制度が導入されても、4期生を含めた全員選抜を維持しても、どちらも大変な決断であって、グループにとってはここまで経験してきた選抜制度との闘いそのものが財産なのだから、どちらの道を選んでも、これから先の未来を見ることはできるのだと信じている。

(文中敬称略)

 

 

 

 

 

*1:坂道AKBのように複数のアイドルグループからそれぞれ何人かのメンバーを選び、特別に楽曲を割り当てることも「選抜」と称されるが、この選抜については含めない。

*2:ただし、SKE48『恋落ちフラグ』、NGT48『あのさ、いや別に…』、STU48『大好きな人』など、当時の活動中メンバー全員(あるいは研究生を除く全員)が選抜されたこともあり、これが「全員選抜」と称されることもあるが、いずれも後述する欅坂46 1stシングルの選抜発表以後の出来事である。

*3:23rdシングル「しあわせの保護色」にはアンダー曲が収録されていないが、全メンバーの歌唱曲が最低1曲は収録されている。

*4:ただし、AKBの「48」は、人数を表す数字として付けられたわけではなく、AKB48のメンバーが48人だった期間は短い。概ね「AKBは48人くらい」という一般的なイメージに対応するものであったと思われる。

*5:いわゆる「新4期生」を含まない。

*6:ミート&グリート。コロナ禍以降の握手会の代替とされる、オンライン・対面でのお話会のこと。以下も「ミーグリ」と記す。

*7:公式には「スケジュールの都合」と表記されるが、実際にはスケジュールに関わらず無条件に免除されると噂されている。なお、全国握手会・全国ミーグリには参加する。

*8:設立時「Dog House合同会社

*9:デビュー前に活動を辞退した鈴木泉帆・原田まゆの2人を含み、長濱ねるを含まない人数

*10:AKB48には26人・36人など、より多くの人数が選抜されることもあるが、その際には歌番組などに優先的に出演する「メディア選抜」がさらに選ばれる。乃木坂46は、現在では20人超の選抜もあるが、欅坂46結成時に発売されていた12thシングルの『太陽ノック』までは最大18名であった。

*11:現在に至るまでには、櫻坂46の1stアルバム「As you know?」のリード曲『摩擦係数』の選抜において、21人中15人と非常に近い比率となった事例があるが、後述する「櫻エイト体制」に準拠する体制であり、単純な選抜制度とは異なる形態をとっている。

*12:漢字表記の「欅坂46」メンバー全員。以下、「欅坂46」と表記したときは漢字表記の欅坂46を指す。

*13:当時の総体としての「欅坂46」の21名から、20名を選抜するという意味とも捉えられる。その後の欅坂46の歩みと、他のグループにおける事例を踏まえて、ここでは長濱ねるがグループの活動に「合流」する前のシングルであると位置づけたい。

*14:このときの「欅って、書けない?」では、この発表が当時の欅坂46の1期生20名に歓迎される状況であったことを付け加えておきたい。

*15:4thシングル『不協和音』には、欅坂46けやき坂46の32人で歌唱する『W-KEYAKIZAKAの詩』も収録されている

*16:Zepp Tokyo公演についても、後に「ひらがな全国ツアー2017」に含まれることとなった。

*17:このサプライズ映像は、リハーサルの段階でけやき坂46メンバーが目にしており、それを目にした一部のけやき坂46 1期生が衣装部屋に入り、立てこもった。これは後に「衣装部屋立てこもり事件」と呼ばれるほど、当時のけやき坂46メンバーにとって大きな抵抗を持って受け止められたことが明かされている。

*18:この段落は、2019年2月13日の高瀬愛奈のブログおよび2022年3月9日「TOKYO SPEAKEASY」における佐々木美玲の発言と、当時の時系列をもとに、筆者が推測を交えつつ記述したものです。週刊誌の情報は含みません。

*19:ただし、番組の放送内容欄は8thまですべて「選抜発表」で統一されており、テロップは6thまで「選抜発表」の文字が残った。

*20:以下、坂道合同オーディション

*21:乃木坂46の4期生に内定したが辞退した松尾美佑を含む。

*22:後述するが、この間にけやき坂46は日向坂46として改名・CDシングルデビューしている。

*23:参考:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44872030W9A510C1000000/

*24:同年に行われた2nd YEAR Anniversary Live、ならびに欅坂46 夏の全国アリーナツアーには参加していない。

*25:正確には、長濱ねるを除いて

*26:「黒い羊」の発売時には欅坂46に2期生が加入しているが、2期生が全体の活動に「合流」する以前のシングルである。乃木坂46においては、「乃木坂工事中」の選抜発表の際に表示されるテロップに「3期生」などとの記載があり、合流時期が明確に示されている。欅坂46・日向坂46では公式に示されていないが、ほぼ同様に、その期のメンバーが最初に表題曲に参加したシングルより前のシングルを「合流前」と解釈する。

*27:「新2期生」を含む

*28:ただし、『Nobody's fault』は『欅坂46 THE LAST LIVE』の2日目エンディング終了後に初披露されている。これは、『そこ曲がったら、櫻坂?』において、フォーメーションや新体制の詳細が発表される以前であり、『Nobody's fault』の参加メンバーや楽曲フォーメーションについては、初披露のタイミングで事実上発表されている。

*29:この間にオーディションを経て加入した3期生は5th・6thでは「合流前」にあたると解釈する。

*30:1stシングルから現在に至るまで、『そこ曲がったら、櫻坂?』においては、「フォーメーション発表」という表現が引き続き用いられている。7thシングル『承認欲求』における選抜制度導入の際も、「フォーメーション発表」の一環として発表された。

*31:活動中のメンバーとしては、影山優佳を除く20人

*32:2019年12月18日の『ひなくり2019』において、『ひなくり2020』の東京ドームでの開催が決定したが、その後、新型コロナウイルス感染症の影響により有観客でのライブが開催できない事態となったため、東京ドームでの『ひなくり2020』の開催は叶わなかった。東京ドームでのライブは、2022年3月30日・31日の『3回目のひな誕祭』で達成された。

*33:正確には、シングル制作時点で活動中。4thシングルは発売日時点で「新3期生」が加入している。

*34:表題曲・リード曲に当該期のメンバーが1人以上参加したシングル・アルバムの発売日

*35:29thシングル『Actually…』を含めない場合は400日

*36:参考:https://twitter.com/345__chan/status/1061924376105242626

*37:オーディション合格者。小澤愛実を含まない。

*38:オーディション合格者。うち1名辞退。

*39:筆者も前者の一人であることを申し添えておきたい。

*40:より正確には、「少なくとも障害にはならないこと」である。パフォーマンスのための最適な人数を追求する観点から、人数を15人程度としているという解釈もできるように思う。2020年・2021年の紅白歌合戦には全員で出場していたが、2023年紅白歌合戦の『Start over!』には3期生が出演しておらず、パフォーマンスへのこだわりがうかがえる。なお、坂道グループでは近年、基本的に紅白歌合戦には可能な限り全員が参加している。同様に全員参加でなかったものとして、2期生6人を含む21人で披露した2019年紅白歌合戦欅坂46『不協和音』が挙げられる。

*41:例えば、櫻坂46が公式に選抜制度を導入した7thシングルの3期生曲『マモリビト』には、選抜とBACKSが隠喩的に描かれており、努力が報われないことがあることを示している。